口腔・咽頭の病気

【口内炎】

口内炎とは口の中の粘膜に生じる炎症の総称で、できる部位によっては舌炎、歯肉炎、口唇炎などと呼ばれることがあります。

もっともよく見られるのは、痛みを伴う数ミリの灰白色斑(アフタ)でアフタ性口内炎と呼ばれます。歯で噛んだり、歯ブラシで傷つけたり、やけどなどの傷に雑菌が入り込んで起こりますが、ビタミン不足、ストレスなども関係するといわれています。治療法はうがいで口内を清潔に保ち、ステロイド軟こうを塗ります。治りにくい場合はレーザー照射などを行うこともあります。

特殊な原因として、ヘルペス、手足口病、はしかなどのウイルスによる口内炎、性病の一症状としてあらわれる口内炎、カビによる口内炎、アレルギーによる口内炎などがあります。

治りにくい口内炎と思っているケースの中には初期のがんのこともあります。また、一度に何か所もできる、何度もできるという場合は、自己免疫病(ベーチェット病、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデスなど)をはじめとする全身疾患の一症状として出てくる口内炎の場合もあるため、ぜひ耳鼻咽喉科を受診してください。

【咽頭炎】

咽頭に炎症を起こしたものが「咽頭炎」です。咽頭は鼻や口を通して直接、外と接するところなので、感染を起こしやすいところです。気温の変化、寝不足や疲れなどで抵抗力がおち、細菌やウィルスが感染すると、のどが赤く腫れます。のどの違和感や痛み、ものを飲みこむときの痛み(嚥下痛:えんげつう)があります。倦怠感、発熱がみられることもあります。安静にして刺激物を避け、うがいをしたり、必要により抗菌薬などを内服して治療します。

【扁桃炎】

のどの奥の左右両側にある扁桃が、細菌などの感染により炎症を起こしたものが「扁桃炎」です。扁桃は赤く腫れ、しばしば白い膿を持ちます。のどの強い痛み、つばを飲み込むときの強い痛みがあり、高熱を出すこともあります。安静が必要です。扁桃の膿を取ったり、うがい、抗菌薬の内服などで治療します。食事がとれないときは点滴をしたり、入院が必要になることがあります。扁桃炎で高熱を繰り返すときは、手術で扁桃を取る必要があります。

【扁桃周囲膿瘍】

扁桃炎をこじらせ、扁桃のまわりに膿がたまる状態が「扁桃周囲膿瘍(のうよう)」です。

のどの強い痛み、つばを飲み込むときの強い痛みがあります。痛みが強くて食事が食べられないことや、口が開きにくくなることがあり、耳も痛く感じることがあります。扁桃だけでなく、扁桃のまわりも赤く大きくはれます(矢印)。腫れているところを切開して膿を出し、抗菌薬の点滴、内服をします。しばしば入院が必要となります。再発しやすく、再発を繰り返す場合には扁桃を手術で取る必要があります。

【唾石症】

唾石症(だせきしょう)は唾液腺または唾液腺から口腔内に唾液を分泌する排泄管の中に石ができる病態で、顎下腺唾石症が最も有名ですが、耳下腺や舌下腺にも発生します。石によって唾液の分泌が障害されると唾液腺が腫脹し痛みが出ます。とくに食事のときは唾液が多く出るため、腫脹、疼痛が強くなるのが特徴です。また感染を合併すると腫脹、疼痛の増悪に加え、口腔内に膿の出ることがあります。石が口腔内へ排出されて自然治癒することもありますが、そうでない場合は手術によって石を摘出します。石のある部位によって口腔内から排泄管を切開したり、頸部から皮膚を切開して唾液腺ごと摘出する方法があります。また最近は、皮膚や粘膜の切開をせず、内視鏡を口腔から排泄管に挿入して石を摘出する技術も普及しています。

 

【唾液腺炎】

唾液腺の種類は大唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)と小唾液腺(口腔内などに多数存在)の二つにわかれます。唾液腺は唾液を作り口腔内に排出するので、何らかの異常が唾液腺あるいは唾液腺から口腔内に唾液を分泌する排泄管に起きると、唾液の分泌が不良となります。また、唾液腺内で化膿性炎症が起きると、膿が排泄管を通って、口腔内に排出されることがあります。大唾液腺には急性、慢性の炎症が起きますが、そのうち、ウイルス感染が原因で耳の下が腫れるいわゆる“おたふくかぜ”は、流行性耳下腺炎が正式の病名です。この他、急性化膿性耳下腺炎、急性顎下腺炎、慢性唾液腺炎などがあり、炎症の起きた部位の腫脹、痛み、唾液分泌異常に加え、口を開けにくくなったり、飲み込みや言葉に障害のみられることがあります。

 

【睡眠時無呼吸】

睡眠中に呼吸が止まることを睡眠時無呼吸と呼びます。成人の場合、いびきをかく人で、1時間に5回以上睡眠時無呼吸があり、日中に強い眠気や集中力低下などがあると睡眠時無呼吸症候群と診断されます。診断には睡眠検査を行いますが、多く見られるのは、のどが塞がって起こる閉塞型睡眠時無呼吸です。顎が小さいことや肥満が原因となります(矢印)。おもな治療には、CPAP(シーパップ)という治療器械をもちいる方法、マウスピースを夜間装着する方法と、のどを広げる手術があります。小児でも睡眠時無呼吸が起こりますが、夜間にいびき、口呼吸、苦しそうな呼吸があるときには注意が必要で、日中には注意散漫や居眠りなどを起こす場合があります。アデノイドや口蓋扁桃肥大が原因の場合が多く(矢印)、手術により改善を期待できます。成人、小児ともに耳鼻咽喉科で鼻やのどの診察をうけることによって、最適な治療法を決めるための情報を得られることが期待できます。

【舌がん】

舌がんは、口の中にできるがん(口腔がん)のうちで最も多いものです。舌の両側の縁に発生することが多く、虫歯や義歯などによる刺激や、飲酒、喫煙が影響します。初期症状としては舌の小さな腫れやしこり、舌表面の発赤や白色変化などがありますが、口内炎と間違えて放置され進行してしまう場合がありますので注意が必要です。進行すると舌の痛みや、潰瘍、大きな腫れやしこりが見られるようになります。また、舌がんは首のリンパ節に転移しやすい傾向があります。治療は、手術、抗がん剤、放射線などにより行いますが、進行がんでは、嚥下や構音などの機能に障害を残す危険性が高くなりますので、早期発見、早期治療が大切になります。なかなか治らない舌の異常があるときには、耳鼻咽喉科・頭頸部外科の専門医を受診することをおすすめします。

 

 

【口腔がん】

口腔がんとは、口の中にできるがんの総称です。口腔がんのうち、もっとも多く、よく知られているものは舌がんですが、これについては別項で述べます。舌がん以外には、歯ぐきにできる歯肉(しにく)がん、下あごの歯ぐきと舌に囲まれた部分(口腔底)にできる口腔底(こうくうてい)がん、上あごにできる硬口蓋(こうこうがい)がん、頬粘膜(きょうねんまく)がん、口唇(こうしん)がんなどがあります。歯肉がんは舌がんの次に多い口腔がんで、歯ぐきの腫れや出血、歯のぐらつきなどをきたすため、歯周病とまぎらわしく診断が遅れることがあります。口腔底がん、硬口蓋がん、頬粘膜がん、口唇がんなどは、いずれも粘膜のただれやしこり、発赤、白色変化などをきたしますが、初期には口内炎とまぎらわしいことがあります。良くならない口腔粘膜の異常があるときには、耳鼻咽喉科・頭頸部外科の専門医を受診することが大切です。

 

【咽頭がん】

咽頭は、大きく3つの部分に分けられます。鼻の奥にある上咽頭、口の奥にある中咽頭、喉頭の後ろにある下咽頭です。いずれの部分にもがんができますが、それぞれ特徴が異なります。

上咽頭がんは、鼻の奥、のどの最上部に発生するがんで、耳管(中耳とのどをつなぐ管)を圧迫することによって起こる耳の閉塞感や、鼻づまり、鼻出血などの鼻症状で発症します。がんが進行し上方へ進展するとさまざまな脳神経の症状を引き起こします。また、首のリンパ節への転移によって気づかれることもあります。最近では、内視鏡による診察により、以前に比べて早期に発見されるようになってきました。放射線や抗がん剤による治療を行います。

中咽頭がんは、口蓋扁桃、軟口蓋(口蓋垂、いわゆる“のどちんこ”とその周りの軟かく動く部分)、舌根部(舌の後ろ1/3の部分)、後壁(のどのつきあたりの部分)などに発生するがんで、飲酒や喫煙が影響します。早期にはのどの違和感やしみる感じなどが起こりますが無症状のこともあり、首のリンパ節への転移によってはじめて気づかれることもあります。進行するとのどの痛みやしゃべりにくい、飲み込みにくい、息苦しいなどの症状が徐々に強くなります。治療は、放射線、抗がん剤、手術を組み合わせて行います。

下咽頭がんは、のどの下部、食道の入り口付近にできるがんで、飲酒が影響します。高齢の男性に多いがんですが、女性で長期間の鉄欠乏性貧血がある人に発生することもあります。また、食道がんの合併率が高いことが知られています。早期には症状が軽いことが多く、首のリンパ節への転移によってはじめて気づかれることもしばしばです。早期にはのどの違和感や痛みなどの症状が見られますが、進行すると声がれ、息苦しさなどの症状が出ます。また、耳への放散痛が見られることがあります。最近では、内視鏡の進歩によって早期に発見されるケースが徐々に増えてきました。治療は、放射線、抗がん剤、手術を組み合わせて行います。

【味覚異常】

食べ物の味が分からなくなったり鈍くなることを味覚障害といいます。ときには特定の味が分からない、何も食べていないのに変な味がするといった症状のこともあります。味覚障害の原因はさまざまですが、多くのケースで血清中の亜鉛不足が関係していることが分かっています。亜鉛不足の原因は、多い順に特発性(原因不明)、薬剤、感冒、全身疾患といわれています。鉄欠乏性貧血による舌炎や口内炎、虫歯などに伴う舌炎も味覚障害の原因となります。

味覚障害の程度は、電気刺激や、各種、各濃度の味の溶液を用いて調べます。また、血液検査で貧血の有無を調べたり、血清中の亜鉛の量を測定したりします。

治療法は原因により異なり、亜鉛欠乏が考えられる場合は亜鉛剤を処方します。薬剤性の場合は服用の中止、変更、減量などを検討します。舌には味のセンサーである味蕾がたくさんあるので、表面についた舌苔(ぜつたい)をブラシなどで無理に取らないようにして下さい。